美しい世界とは勝手にできるものではなく自ら作っていくものだ
*白崎卓




夕暮れ時の仕事帰り

「……綺麗だな」

男らしい横顔が見つめているのは、赤い太陽が照らす静かな町並み

本当にぽろっと口からこぼれ落ちたような隣の台詞に、薄く笑って返したのは俺のほう

「なんすか。山口さんがそんなこと言うの、珍しいっすね」

茶化して告げた言葉へはやけに低く穏やかな声音が返ってきて、頭を掻いた

「俺はそんなに風情がない人間に見えるか」
「いや、そういう訳じゃないっすけど……」

普段は冗談を言って、無難な大人の対応をしてくれる人だ
真面目な返答にこっちが驚いてしまう

「確かに、俺も綺麗な景色だと思いますよ」

とりあえず同じような口調で自分も返してみれば、穏やかな声は続いた

「……そうか。おまえにも綺麗に見えるか。意外だな」
「どういう意味っすか……」

馬鹿にされているのかと思ったが、それとは少し違うニュアンス

「俺は普段、なにかを見て『綺麗だ』と思うことが滅多にない」

あなたはずっと、眩しい光の傍で生きている

「だからこんな風景を見て感動できる自分に驚いちまった」

これは狂気の一種なのか

「俺もまだまだ凡人だな」

それとも一種の洗脳か

「いっそ、アキラしか綺麗だと思えない世界に住みてえよ」

俺たちは狭く深い世界で生きていく

「それが一番、俺の性に合った環境だと思う」

様々な矛盾を抱えながら

「おまえはどうだ? 白崎」

強い葛藤と、闘いながら










こんな思い込みだけで、果たしていつまで生きていけるのだろう

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