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[サヨナラの呪文 タカト→アキラ]
*タカト→アキラ



お前が離れていく

「あっ…お、おはようございます…!」

俺の手から、離れていく

「えっ、と…今日は…夕方からバイトで…」

困惑気味の声を出したかと思えば、すぐにはにかんだように笑うその表情を横目で見ながら
お袋が作ってくれた朝飯をいつものように胃に流し込む

「はいっ…!じゃあ、また」

少し赤くなった顔を隠すように電話を切ったアキラは、またいつものようにパンに手を伸ばしてそれをかじる

「…また米も食わねぇのか」
「俺は朝はパン派って、何回言ったらわかんだよ」

そしてまたいつもの口答えが始まって

「んじゃ、行ってきまぁす」

心なしか上機嫌なお前は鞄を抱えて玄関に向かった

「…………」

知らない振りをする事にならもう慣れた

『あ、もしもしっ…!』

夜中にお前が毎晩、誰と電話してるのかも
いつからそんな関係になったのかも全部
分からない訳じゃ無ぇ

『…っ、…俺も…す……好き…です…』

それくらい、俺だってお前を注意深く観察してんだよ

その好きは、一体どこの誰に向かって言ってる言葉だ?
まさかあの餓鬼か?

「……はっ」

下らなさすぎて失笑しちまうな

テメェ等の恋愛ごっこなんざ、見てるだけで引き裂きたくなる

「…お袋」
「なぁに?」
「おかわり」

だが俺は、アキラが傷付く顔や悲しむ姿は見たく無い

いくらムカつこうがなんだろうが

『タカト』

アイツからの信頼を裏切るような真似だけは、しちゃいけねぇんだ

「はい、今日はよく食べるのね」
「美味い飯におかわりは付きモンだからな」
「あらあら、上手いこといっちゃって」

何時も通りの朝とお前の日常

『おはようございます』

きっと今、お前の隣にはアイツが居て

『き、今日もいい天気ですね…!』

アキラが戸惑うように話し掛ける姿をじっと見詰めてる

「……チッ」

そう考えた瞬間、無意識に出たのは小さな舌打ち

「……アキラ」

嗚呼
本当は認めたく無い

『あのさぁタカト』

お前の心が他の野郎に傾いてるなんて事も

『…俺、好きな人が出来たんだ』

俺の手から離れていく事も

『…それでさ』

俺の存在すらも、いつか必要としなくなる日が来る事も

『今すっげぇ幸せなんだ』

全部
全部認めたく無い





















あとがき

サヨナラを告げることすら許されない

『ただいま〜』

それが俺達の関係

『あ、タカト…帰ってたんだ』

それが俺達の距離

『ちょっと聞いてよ、俺の話』

それが俺自身の宿命。

『あの人がさぁ』


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