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木下椿


 微睡みの中、外で若い女の子がキャッキャとはしゃぐ声で開いた瞼。

「…………」

 ここは、どこだろうか。

 ああ、身体も重いし、なんだか頬っぺたも痛い。
 そんな事を考えつつ真っ白な天井を見上げていた視線を、ふと左にずらした時。それはそれは綺麗な顔をしたクールビューティー萩原サマが、心配そうな目をしてこっちを向いているのが見えて、薄く笑う。

「あらら、どったの……?」
「……それは此方の台詞だ」

 寝惚けたまま首を傾げれば、額を軽く指で弾かれた。

「いたた……」
「朝登校して靴を履きかえようとしたら、お前が廊下に倒れていたんだぞ」

 その台詞を聞いてようやく、どうやらここは保健室らしいという事も理解した。

「ああ、成る程……」

 そしてあの悪魔とのやり取りも、やっぱり夢じゃなかったのかと深く項垂れる。

「一体何があったんだ……」

 綺麗な指先があたしの髪を撫でて、その暖かさが身に染みた時、隠す意味もないかと早々に判断して、動かした口。

「ほら、例の『ゲーム』ってやつ……」

 苦笑いをしながらそう呟けば、目の前の人は一瞬凍り付き、みるみる内に怒りの色を見せ始めた。

「これがゲームだと? ふざけるな……!」
「どうどう、怒らない怒らない」
「ふざけている場合じゃない!」

 あらまあ珍しい。あの萩原サマがこんなに感情的になってるなんて……。
 気持ちは嬉しいけれど、変に自分なんかに関わればこの大切な友人にまで危害が加わり兼ねないのは明白だった。

「アタシなら大丈夫だって」
「怪我の原因は葛城か?」
「ほら、落ち着いてってば」
「いいから早く答えろ、椿」

 相変わらずそこら辺の男よりも普通に麗しく格好良い顔を見詰めて、へらっと笑う。

「秘密」
「……はあ?」
「萩原サマは巻き込めないよ」

 特にあの悪魔には絶対に会わせたくない。

「巻き込む巻き込ま無いの問題じゃないだろう。私はお前の親友だぞ」
「だからこそ余計にだよ。たかが1ヶ月、アタシが耐えればいい話なんだから」

 神谷の暴力になんか屈さない、葛城の嫌がらせにも耐え抜く。

「ゲームの参加者は3人……」

 あの2人を、絶対に負かしてやる。
 それが弱い立ち位置に居る、自分のせめてものプライドだ。

「萩原サマは、裏から精神的に支えててよ。それがあれば、何されても耐え抜けるよ、アタシ」


 ぐらつく身体を起こして上履きを履けば、ため息をついた綺麗な人が横から支えてくれてなんとか姿勢を保つ。

「……何かあったらすぐ私に電話しろ」
「うん」

 意外と頑固なアタシの気性を理解してくれている親友が、諦めたように呟いた。






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