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葛城拓哉





 苦しむ人間を見るのは嫌いじゃない。
 頭から水を掛けられて気だるそうに濡れた制服を絞る後ろ姿を、微笑みながら見つめる。

 ジャージに着替えて制服を干そうにも、下手な場所へは置けないだろう。
 結局肌身離さず濡れた服を抱えた黒髪の女は、小さくため息をついて新しく用意された椅子に座った。

「……椿」
「あー、あんがと萩原サマ〜」

 俺の『駒』である木下椿の親友、萩原さんがまだこの苛めに歯止めを掛けているのは明白だった。

「……………」

 それでも常人なら弱音を吐いて登校拒否になってもおかしくない程の仕打ちだ。
 確かに面白い。君は平凡に見えて案外神経が図太いんだね、木下椿ちゃん。

 女の子にはとことん優しくて、また無防備で寛容で。潰しがいがあるってモンだ。

「ちょっと……マジうざいんだけど」

 ヒソヒソと話し合う怖くて薄汚くて扱いやすい女の子たちに細めた目。

「ねえユリカちゃん」
「えっ? なに拓哉」

 木下椿をターゲットに選んだのは、やっぱり一番の正解だったかもしれない。

「ちょっと頼みたい事があるんだけど……」

 さあ、本当に罠に掛けたい人間を誘き寄せる土台は揃った。

「拓哉の頼みだったら何でも聞くよ?」

 だから神谷。

「ホント? ユリカちゃん大好き」

 お前ももう少し頑張ってくれよな。


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