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[疑い×勘×提案]
萩原美凉




 手を洗いながら、自分の家のように私の家を片付ける背中を見詰めた。

「まった洗濯物溜まってる! この前来てまだ全然時間経ってないよね!?」

 片手で器用に服を抱えては洗濯機に放って行く小さな後ろ姿。

「逆にどうやったらこんなけ散らかるんだ……」

 結局片腕で料理をするのが難しい椿の為に、私が台所に立つことになったのは良いものの、さっきから片付けと台所の往復を繰り返す友人の姿にため息をついた。

「椿、このキャベツを切ればいいのか」
「ぎゃーっ駄目駄目! そんなん持ったら危ないでしょ萩原サマ!」
「……包丁を持たずにどうやって食材を切る」

 料理をしたいが出来ない椿と、とにかく空腹を満たしたい私との間で交わされるチグハグな会話。

「いやっまあそうだけど!」
「そんなに心配ならインスタントラーメンでも……」
「それだけは絶対にダメ!」
「……はあっ、埒が明かんな」
「萩原サマはちょっと目を離すとすぐラーメンばっかり食べるんだから!」

 結局後ろでピーピーと喚く黒髪の友人を押し退けて、鍋を出し水を入れてかけた火。


「あー、もう即席ラーメン作るつもりなんでしょ!」

 もう無視だ。久しぶりのインスタント位目を瞑って欲しい。

「おばさんになってから若い頃の食生活の悪さを嘆いたって知らないからねー」

 お前が傍に居始めてからは、まだまともな生活を送るようになった方だろう。

「よし、出来た」

 2人分のラーメンをテーブルに置いて手を合わせる。

「いただきます」
「……いただきます」

 渋い顔をしながらも麺をすする椿を見て小さく微笑んだ。

「味は悪く無いだろう?」
「……悪か無いけど栄養が足りない」

 顔は笑っていても、自分の内心は酷く揺れ動く。

「明日こそサラダだ」
「切れないでしょ萩原サマ」

 明らかに椿はこの5日間の間に衰弱していた。

「やってみんと分からん」
「野菜と間違えて指切られても困るからね……」

 滅多に疲労を顔に出さないこの友人が、疲れきったように笑う。
 見ているだけで痛ましかった。


 私に嫌がらせが飛び火しないようにと、必死に気を使って教室でも話さないようにしてくれる姿も、放課後1人で池に投げられた体育着を拾う背中も。

「……萩原サマ?」

 その全てがどれだけ私を大切に思ってくれているのかが痛切なほど伝わってくる。

「どったの、大丈夫?」

 そんな気遣いをくれる位なら、痛みや苦しさを分けて欲しい。私も一緒に傷付いて、負担を軽くしてやりたい。
 だがそれすらも椿が嫌がるなら、休みの日だけでも全てを忘れさせてやって、苦痛を和らげてやる事しか私には残されていないんだ。

「ラーメン伸びるよ?」

 怪訝な表情でこちらを見詰める友人の頭を軽く撫でて、笑う。

「……明日の買い物、楽しみだな」

 こんな理不尽なゲームに、椿が無条件で付き合ってやる義理は何処にも無い。

「うん、楽しみ楽しみ! 買い物なんて久しぶりだわ〜」

 止めさせなければ。私が。

「……そうだな」

 絶対に。




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