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木下椿





 人混みの中を歩いて、隣の綺麗な人の顔を見上げて微笑んだ。

「怖い顔しちゃやーよ」
「……怖い顔などしているつもりはない」
「そっかそっか、ごめん」

 服屋で服を見たり、雑貨屋で小物を見たり。アタシ的にはすごく楽しくて充実している時間なのは間違いないのだけど。
 いかんせんやっぱり、萩原サマには買い物というものは向かないらしい。

「辛かったら前の椅子に座ってな?」
「いや、大丈夫だ……」

 だけど気遣って話し掛けてみても、この台詞の一点張り。

「あはは……」

 苦笑いをしつつ、自分の気分転換なんかに付き合わせて居るのも悪いと思えて、小物のアクセサリーをなんとなく眺めた。
 そしてふと目についたのは、シンプルなシルバーの指輪。

「へえ、そんなに高くない…」

 中指にそれをはめて値段を見れば、中々リーズナブル。
 確か萩原サマは、アタシよりも指輪のサイズが大きかった気がする。

「んーと」
「椿、何をしている」
「萩原サマのサイズを計ってる」

 物の多さに圧倒されているのか、ふらついていた親友を隣に連れて来て、その指に様々な大きさのものをはめながら、ピッタリ付けれたサイズが見付かった時、思わず頬が緩む。

「おっ、ちょうどじゃん〜!」
「なんだ、指輪か?」
「そ、ペアリングにしようと思って」

 嬉々として萩原サマの指にはまったシルバーの指輪と同じデザインの指輪を取って、合計2つをレジに運ぶ。

「おい、金くらい自分で出すぞ」
「いいのいいの! 何時もお世話になってるから、そのお礼!」

 後ろからまたピーピーわめく声を遮って、素早くお金を出してから店を出る。
 キラキラと輝く指輪を早速つけた友人が、目を細め呟く。

「気持ちは嬉しいが、余計な気を遣うな……」
「気なんか遣って無いよ、只のお礼だしね」

 また雑踏に揉まれて信号待ちで立ち止まった時、遠くを見据えながら小さく呟き返した。

「あ、学校ではつけなくていいよ。アタシとお揃いじゃまた何かと厄介な事になるかもだし」

 その言葉も次の瞬間、鋭い声に突き刺された。

「下らない自虐は止せ、気分を害する」

 人混みは、いつもアタシを取り残して歩いていく。

「……お前は私の親友だ」

 隣の人は囁き続ける。

「少なくとも、私はそう思っている」

 緩やかな日差しの中、苦笑いが溢れた。

 それから一緒にお昼を食べ、疲れた足を癒す昼。

「相変わらずよく食べるね萩原サマは〜」
「そうか?」
「そんなけ食べてそのスタイルとか、ないわあ……」

 目の前でお皿が積み重ねられていく光景を、只ぼんやりと見詰める。

「そう言うお前は何故食わない」
「いやこれが普通だから」

 お互いの中指に光る指輪がライトに照らされて、一息ついてからゆらりと立ち上がってレジに向かった。

「そうか、ならば確かに私は食べ過ぎかもしれんな」
「……天丼に肉うどんにざるそばにおにぎり2個にあんみつパフェって。怖いっての。まあ、食べるのは良いけど栄養考えなよ〜」
「ああ、気を付ける」

 お会計を済ませて外に出れば、休日の賑わいはなにも色あせず、この耳を楽しませた。

「さて、次はどこに行く?」
「あ〜、あの服屋かわいいなあ〜」
「なら行くか」

 今日は、いい天気だ。

「いらっしゃいませ」

 普段自分が絶対に着ないような、お上品で可愛いく高いお洋服に手を伸ばして、じっと見詰めた。

「ははっ、アタシのバイト代飛んでっちゃうよ」
「いくらだ」
「3万円」

 横から声をかけてきた綺麗な人にへらっと笑い、手触りの良い生地を離す。
「でもやっぱ、いいなあ〜この服」

 何か言いたげな視線に少し目線を上げれば、反らされた顔。

「なに、どったの?」
「……いや」

 店員さんが近付く前に、フワリとした足取りで出ていく背中を追う。

「やはりお前も女なんだな……」
「はあ?」
「服を見ている時の顔が真剣だ」
「いや、それ誉めてんのかけなしてんのかどっちよ」

 その前に萩原サマも女の子でしょ。
 呆れたため息と共に呟けば、淡々と返される台詞。

「私には、女の気持ちは理解出来ん。もしかすると本当は男かもしれんな」
「じゃあアタシと結婚出来るじゃ」
「断固断る」
「返事早っ!」

 雑踏を歩む歩幅に黒い髪が揺れた時、あの真っ直ぐで綺麗な萩原サマの瞳が、ある一点を見据えて止まった



「んあ? どったの?」
「……すまん、少し見たい物がある」
「あら珍しい、なら一緒に……」
「駄目だ、お前はここに居ろ」

 真剣な声のまま、近くのお洒落なベンチに無理矢理座らされて、駆けていくように消えていく背中を唖然と見詰める。

「すぐ戻る、なんならその雑貨屋でも見ていろ!」
「ちょっ、萩原サマ……!」

 ようやく声が出るようになったかと思えば、もう人混みに紛れてあの綺麗な人は見えなくなっていて、頭を掻きつつ、青空を見上げてため息をついた。

「はあ〜。ったく、どうしたんだか……」




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