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木下椿






 萩原サマが居なくなってもう10分。
 今日の空が青いことを、改めて地面に横たわりながら感じていた。

「ケッ、葛城の頼みだっつーからどんな奴かと思って気合い入れて来たのによお」
「よりによってこんなブス……最悪だな」

 細い路地の影で、ゴミや地面とお友だちになりながら、ぼんやりと思う。

「げほ……っ」

 なんでだろう。なんでこんな休日まで、葛城の名前なんか聞いて、痛くて面倒な思いをしなくちゃいけないんだろう。

「あーあ、ギブスしてるし包帯巻いてるし……お前相当虐められてんのな〜可哀想」
「慰めてやれよ」
「馬鹿、こんなブス犯せるかよ」

 綺麗な空。アタシとは大違いだ。

「俺は穴さえあればいけるクチだぜ?」
「ならお前が犯せっての」

 ああ、踏みつけられてる腹が痛い。どっか具合悪くなりそう。

「嫌だ、やっぱもっと可愛い奴じゃねえと無理」
「どっちだよ」
「……っ!」

 不意に背中を蹴り上げられて、俯せにならされた体。
 次は傷口に近い後頭部を靴でぐりぐり踏まれて、激痛と一緒に目眩がする。

「あのさあ木下椿ちゃん、葛城って奴がね〜どうもお前とやってるゲームに早く勝ちたいらしいのよ」
「……っ、ぐ……」
「早くギブアップしないと、お前マジで死んじゃうぞ」

 血が吹き出す感覚が、掠れた意識の中でも手に取るように分かる。

「あ、包帯真っ赤になってきた……傷口開いちゃった? ごめ〜ん」

 肩で荒い呼吸を繰り返して、地面を爪で引っ掻いてなんとか意識を反らすけど、無理だ痛い。

「……〜っ!」

 最初に買った洋服の袋もぐちゃぐちゃになっちゃったし、傷口は開くし何にも良いことないや。

「それにしても、コイツって普通の女みてえにピーピー泣かねえよな〜」
「精神力だけは図太いってか」

 いや、違う。良いことはあった。
 萩原サマがここに居なくて、本当に良かった。巻き込まずに済んだじゃないの。それだけで大成功。

「いいか、お前の言動や1日の行動は、誰かを通して絶対に葛城に流れる」
「つまり何処にいても逃げられねえって事だ、外に居ればこうやって俺達がお前をボコるし、学校では誰かがまた虐める」

 ああ、お空が遠いこと。

「傷付きたくなけりゃあ引きこもるかギブアップするか、どっちかってこった」

 さっきから自分を蹴ったり踏んだりしながら、むにゃむにゃと言っている二人の声が遠退いていくのを感じた刹那。

「おい」

 細い路地に誰かの声が響いた。

「ぶっ殺すぞ……退け屑」

 あー、もー無理。

『ソイツは俺の玩具だ』

 意識がもたない。


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