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木下椿



 深い闇。
 海の底のような孤独感。

『…………』

 もがく足元には鎖と砂。
 見えもしない海面に手を伸ばす。

「き……」

 嗚呼、お空が遠い事。

「つばき……」

 あれ。誰かがアタシを呼んでいるような気がする。
 誰がこんな、アタシなんかを。

「椿……っ」

 暗闇に沈んでいた意識が、不意に浮かび上がる。
 瞼を開いてみれば、何故か天井を見上げていた。

 そのままゆっくり視線をさ迷わせて行けば、疲れきったような顔をした萩原サマが映ってへらっと笑う。

「……おはよー、今何時?」
「18時だ……大丈夫か?」

 何が大丈夫なんだ。18時って、寝坊レベルじゃないな。
 そう思って身体を起こそうとした時、いろんな箇所に痛みを感じて、ようやく記憶が瞬時に蘇って来た。
 ああ、そう言えばなんだかよく分かんない人達に殴られたり蹴られたりしたんだっけ……。

「動くな、傷口が開くぞ……」
「大丈夫大丈夫」

 頭を押さえて起き上がれば、そこは自分の部屋の次に見慣れた場所。

「……あらま、萩原サマのお家に帰って来ちゃったのね」

 そう呟けばまた背中をゆっくり倒されて仰向けになる。

「動くなと言ってるだろう……」

 咎めるような過保護な仕草に苦笑いをしながら手を少し動かした時、ある事に気付いて呟いた。

「……指輪がない……」

 あの時に何かの弾みで取れてしまったのだろうか。焦ってまた身体を捻り辺りを探す。

「椿」
「落としたのかな……取りに行かなきゃ……」

 あれはアタシと萩原サマを繋ぐ大切な証で買ったんだ。軽く無くして良いものじゃない。

「落ち着け」
「うん、落ち着いてる」

 どうしよう。

「それで落ち着いているのか? 横になれ、指輪の1つや2つ……」
「駄目、良くないから……探してくる」

 どうしよう、早く見つけないと。

「椿、動くな……!」
「早くしないと、早く……っ」

 不安だ。


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