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萩原美凉






 半ば暴れるような身体を押さえる。

「椿、いい加減にしろ!」

 普段どちらかと言うと脱力していて、感情の起伏が乏しい部類のこの友人が混乱している現状に、少なからず私自身も混乱していた。

「探しに、行かなくちゃ……」

 何故椿は、あんな指輪にそこまで執着するのか。普段物に対して、そこまで何もこだわらないと言うのに。

「見つけないと……っ」

 扉の前に立ち塞がるように立ち、必死にその身体を抱き締めた時。不意に自分の指についた光るものを見て、胸が締め付けられた。

 そうか。お前は。

「ほら……大丈夫だ」

 あんな『物』に頼らなければいけない程、依存しなければならない程。

「……私はここに居る」

 精神的に追い詰められ、疲弊していたのか。

「…………」

 持ち物を揃えるなんて事を今までしなかったお前が、どこか無意識に私との繋がりに不安を抱き、あの指輪を送ってくれた。
物で繋がりを再確認しなければ不安なんだ。
誰かに傷付けられ、罵られ続けて。

「……すまない」

 いつの間にかお前は、ここまで孤独に追い詰められ、苦しんでいた。

「何もしてやれなくて、すまない……」

 こうなるまで気付いてやれなかった自分の不甲斐なさで心が軋む。

「椿、お前は私の大切な、親友だ……」

 何時も身に付けているネックレスを外して、意識も虚ろな友人にそれをつけてやる。
その刹那崩れるように意識を失った身体を支えて、またベッドに横たえた。

「はあ……っ」

 ゲームという名の理不尽な苛めを呪った。

「……葛城」

 不意に頭を過った憎く気味の悪い笑みに吐き気が起こる。
 この質の悪い遊びを止めさせるには、奴を問い詰めなければ。

 一体何のために、これ程まで椿が追い詰められなければならない。
 その目的は、一体なんだ。

 神谷との因縁に蹴りをつける為だけの『ゲーム』にしては、あまりに残酷で無意味で不可解だ。なにか必ず裏がある。

「くそっ」

 どこか浮わついた自分の思考を一喝して、睨むように窓の外を見た。
 葛城を止めるよりもまずは、この理不尽な暴力を止めるのが先だ。

 そして一人思い浮かぶ、あの鋭い眼差しをした男を頭の中で描いて、眉間に皺を寄せた。
 私だけで葛城を追い詰めるのには限界がある。そもそも葛城を責め立てた事でこのゲームとやらが根本的な解決に向かうかは分からないが、今の状況を打開するために協力者は必要だ。
 一般の生徒は力になりそうもない。もし頼るとすればアイツだけだ。

「…………」

 深い眠りについた黒髪を優しく撫でて、項垂れる。

「はあっ……」

 月明かりが暗闇へ微かに溶け込み始めた。





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