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中村イツキ













漂う光
淀む空気

体がぴくりとも動かない

「……帰る」

でも、確かに彼がそう呟いた瞬間

「…………」

全てが終わったと思った

「ああ!?おい黒武!逃げんのか!」
「うるせえ」

原稿をまとめて鞄に詰めた黒い人が、教室からまた出てきて俺の方へと真っ直ぐ歩いてくる

「…………」
「……」

逞しい体は、そのまま隣を通り抜けて、階段を下っていく音が耳に入り込む

「…………」

不意に、泣きそうになった

「離せっ」
「……」

振り払う白い人に流されるようにして拘束を解いた斎藤先生が、俺を見詰めたまま立ち上がった

「おい、中村」
「聞かないでください」

その瞳や表情を見ただけで、何が聞きたいかなんて安易に想像がつく

「……なにもありません」
「…………」
「だから、聞かないでください」

嗚呼
今まで俺がしてきたことは、なんて茶番劇だったんだろう

「…………」

ゆっくり目を瞑って、深く深呼吸

それから毎週末
彼が図書館に来る事はなくなった


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