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会田黒武










最悪だ

「…………」

まさか、アイツが

『こんにちは』

うちの学校の、しかも教師だった

『どうですか?調子は』

本当に、最悪だ

「……チッ!」

教師じゃない、俺の身近でない存在だと思っていたからこそ、あそこまで心を開いていたのに

『……知ってた訳、無いじゃないですか……』

よりによって先公なんかに

俺は

「畜生……っ!」

一人でそう怒鳴りながら、近くにあった缶を思い切り蹴り飛ばす


その日から案の定
毎週末俺が図書館に行くことはなくなった

だが、いくら協力してくれたアイツが居なくなろうと、今の執筆だけは止めるわけにはいかない

「…………」

他の図書館は地元からは遠い
だが家じゃ気が散る


「あっ黒武さん、おはようございます」

金も掛からなくて、俺がコントロールすればそれなりに適度な環境が保たれる

「……おす」

ついでに、最近ヤバい出席も補える学校の教室で
執筆を続けようと自分の席につく

「テメェら、無駄口叩いたらぶっ殺すからな」
「「はっ、はい」」

アイツは1年の授業担当をしているらしい
たまに遠くで見掛けはしても、お互いに無視が続く

「…………」

あれだけ疲労していた意味が、ここでの業務から来ていると知れば知るほど怒りがこみ上げる

アイツにとって今の俺が疲労の対象に変わった事は、クソがつく程気分が悪い事実だった

「……はあ……っ」

あの日から癖になりつつある盛大なため息と一緒に、原稿を取り出して机と紙を睨む

「…………」
「おーっす黒武〜」

その刹那教室に響いた軽々しい声に、思わず殺気立つのを堪えられずに入り口へと視線を向けた

「……テメェ」
「まぁーた作文か?」

白い学ランに白いシャツ、ズボンに小物まで全て白に染めた男が、馴れ馴れしい笑みを俺に向ける

「……さっさと出ていけ、テメェに構ってる暇なんざねえ」

正直、今すぐにでも殴り倒してやりてえが
喧嘩をすることで原稿に向ける集中力が切れるのが嫌で鉛筆を握る指先に力を込めて

「つれねえなあ〜、相手しろや」

あまりに餓鬼くさいその台詞に、思わず鼻で笑った

「お前みたいな暇人と一緒にすんな」

コイツみたいな喧嘩馬鹿は、夢も努力する事も知らないに決まってる

同じ所に立つのすらダルい

「……ああ?」

そんな嘲笑のニュアンスが伝わったのか、一気に眉間に皺を寄せた白い男が机を蹴り飛ばして俺の所まで来た時

「……随分と大人ぶってんじゃねえか黒武、あ?」
「……ダリぃ」

汚れないようにと原稿を机の中に仕舞う

「何がダルいだコラ」
「相手してる暇なんざねえって言ってんだ、聞こえねえのか暇人」

そのまま張り詰めたような空気は続いて

「……テメェ!」

とうとうお互いに手が出た

それから数分後

「こんの馬鹿野郎共が!!」

鬼の形相をした斎藤に取り押さえられて、直ぐ様別々の部屋に閉じ込められ、少し待たされた挙げ句今は散々な説教をくらう

「お前は挑発に乗りやす過ぎるんだよ会田」
「……うす」

つまらない
こんなところで時間を潰すくらいなら、早く執筆を続けたい

「さっき白柳の野郎にもおんなじ事言ったがな、喧嘩する気力があんならそれを他に向けたらどうだ」

この口ぶりからすると、白柳の野郎は先にこの説教を終わらされて解放されたらしい

「……んな事言われなくとも、俺は俺のやるべきことをやってんだよ……っす」

苛々を隠せず貧乏ゆすりをすれば、名簿の角で膝を叩かれる

「白柳の挑発に乗ってる内は出来てねえんだよこのバカタレ」

しかしこの男も、毎回一々俺たちの喧嘩を止めて教師らしく説教を垂れるとは、律儀なヤツだ

「…………」

他の教師とは違う
この男は、俺たちと同じ視線に立って尚且つ大人として上手く教師という役割を果たしている

「……ったく、しゃあねえな」

他の生徒の頭が上がらないのは、初代黒の右腕だったことも去ることながら、この対応に多少なりとも尊敬心が含まれているからなのかもしれない

「もう行け、次数学だろ」

その言葉に立ち上がって、少し頭を下げる

「……っす」

その刹那また頭を過ったアイツの横顔に、不快感が全身を覆う

『いいですね、やっぱり』

斎藤はこんなに教師としての役割を果たしているのに、アイツはどうだ

『綺麗な字』

毎週末、図書館に逃げ込んできて疲れた顔して
俺たちと向き合おうともしてねえじゃねえか

『あなたの字、好きです』

教師として、最低だ


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