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白柳










鈍い鉛色の雲

「…………」

湿った空気

「あ、お疲れ様です白柳さん!」

覚めない夢がずっと続いている

「……おう」

もう18の俺は

「帰るんすか?」
「まあな……」

まだ餓鬼のレッテルに守られながら、回りに迷惑を掛けて生きている

「…………」
「……」

廊下を歩いて階段を下ろうと角を曲がった時、全身を黒に包んだ野郎と鉢合わせて、止まる体

「……よう黒武」
「…………」

自然と張り詰める空気

「また作文か?」
「……ああ?」

意識とは裏腹に緩む口元

「……お前よお、そんなん書いて生きていけるとか本気で思ってんのか?」

コイツが、あの日からほぼ毎日
放課後に生活指導部屋に入り浸っていることは知っていた

「…………」
「教師の魂胆にまんまと乗せられてんだぜ」

作家を目指していることも

「作家なんざなれるわけねえのによ、夢だけ見させてテメェを更正させようとしてんじゃねえか」

それに向けて日々、努力していることも

「そんなこともわからねえのか?」

全部、知っていた

「…………」
「本当は誰もお前が作家になれるなんて思ってねえんだ」

だから、焦っていた

「…………」

まだ夢を見られないままの自分を置いて、コイツが先に行ってしまうのが

「あっ、会田くん!」
「……先生」

本当は、怖いんだ

「……あれ、白柳君も居るんだね、こんにちは」

こんな不良学校に進学したはいいものの
勉強なんてろくにしないで、お情けで学年上がって、学校を辞めようとしたのを何回も斎藤に止められて

「白柳君も来る?生活指導部屋」

俺は、人生の中で
なにかをやり遂げたことが一度もない

「……おい、俺は御免だぞ」
「いいじゃない」

俺は、いつも目の前の事しか考えずに
不良ってやつに甘えて適当に生きてきた

「…………」

夢なんて、追うだけ無駄だって
また大人や回りに馬鹿にされて終わるって
そうとしか、思えない

「……白柳君?」

けど
目の前のコイツが、こんな馬鹿みてえに
作家なんて夢を真っ直ぐ見詰めているから

「……はっ、馬鹿みてえ」

まだ夢を見れるほど何かに打ち込んでいる訳でもない俺は

この場所から動き出すことが出来ない

「……死んでも行かねえ」

それに内心焦りや不安や、羨望を抱えながら

「…………」

苦しい日は続く


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