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中村イツキ












日が差し込む部屋

「…………」
「……」

だいぶ使われていない様子だったその部屋を片付けたのは、もう1週間も前のこと

「よいしょ」

書類類を机の上に置けば、俺のすぐ隣に座った黒い人に微笑んで、話し掛ける

「最近執筆の調子はどう?」
「……まだ修復作業に追われてる」

無表情でそう呟いた横顔が赤い日に照らされて

「だよね……」

君の男らしさを更に際立たせた

「…………」
「……」

沈黙が好きな君は、ここに来て作業を始めてしまえばほとんど俺とは話さない

「……なあ」

けど、今日はどうやら勝手が違うらしい

「ん?」
「……アイツ、糞野郎だけどよ」

アイツと聞いて浮かんだあの白い人に、聞き返すこともせず耳を傾ける

「アイツの気持ちも分からねえ訳じゃねえんだ」
「…………」

そんな台詞を聞いて、内心少し驚く

「俺がもし、文字を書くのが好きじゃなかったら……今もああやって、アイツみてえにフラフラしちまってたと思う」

目を細めてどこかをぼんやりと見詰める瞳

「……不安で、どうしようもねえんだ」
「…………」
「大人も信じられねえし、夢も目標も無い……宙吊り状態のまま」

少し微笑んで、書類に触れる

「……大丈夫、俺もそうだよ」

不意に向けられた視線が痛い

「…………」
「今、君たちには選択肢が沢山あるんだ……君たちにはきっと見えていないだろうけど」

進む秒針

「歳を重ねれば、嫌でも自分の選択肢の狭さが突き付けられて……想像出来る範囲の現実ばっかり見えてくる」

流れていく時間

「……そしてその中で、もがきながら生きていくんだ」

つまらないことばかりで埋められていく時間に

「……狂ってるんだよ……どこもかしこも」
「…………」
「だから今、正論を教え込むんだ」

君はゆっくりと瞬きをして

「この世の中がいかに狂ってるか、大人になってきちんと分かるように」

俺を見詰め続けた

「…………」
「……なんてね、冗談だよ」

夏の夕日が眩しい

「……でも、そうだね」
「…………」
「白柳君も、きっと苦しんでる……君と同じように」

自分にはどうすることも出来ないから、せめて口と指先だけを動かす

「……人間はいつも、誰だって、色んな秘密や苦しさを抱えてるんだ」


表情を消した瞳が、一瞬揺れて

「……アンタも?」

純粋な声が心を突き刺す

「……そうだね、俺も、秘密はあるよ……沢山」
「…………」

重くて寂れた声が口から空気を揺らす

「……アンタは、秘密ばっかりだ」

君は俺の美しい希望

「…………」
「……狡いくらい、秘密に覆われてる」

そして儚い夢


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